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中医学の医師に聞く〜足湯の健康法と足湯治療法〜

中医学の医師にきく〜足湯の健康法と足湯治療法〜

聞き手...月刊「健康医学」編集部 成田 知栄子記者

解説...藤田康介医師 ▼プロフィール▼
・1974年大阪市生まれ・上海中医薬大学卒・医学博士

●上海鼎瀚中医クリニック医師 日本部部長
●世界中医薬学会聯合会腎病専業委員会 理事
●日本温泉学会会員
藤田康介国費留学生として日本人で初めて中国の中医薬大学医学部から博士号までを取得。2005年、中医師免許を取得。
上海中医薬大学付属竜華病院や徐匯区中心医院中医科などを経て、現職。 上海市名老中医陳以平教授など数々の老中医に師事した数少ない日本人中医師として、中国・上海を拠点に活躍中。翻訳著書に中医学の標準教科書となっている「中医内科学(東洋学術出版社)(2009年6月発行)がある。

 

 

足湯足湯のメッカといえば、中国。
中国では、多くの家庭に足湯容器があり、足湯(足浴)屋さんも至る所に立ち並んでいるほど、足湯が現代中国人の生活に根付いているようです。
そして、病気の治療でも足浴が使われているという話をきき、中医学の医師として、上海を拠点にご活躍されている藤田康介先生を訪ね、中国での足湯の活用についてお話をうかがってきました。

 

●中国の皆さんは、よく足湯をするという話をききましたが、なぜ、足湯が生活に習慣づいているのでしょうか?

▼藤田医師
中国語では足湯のことを「足浴(ズーユー)」もしくは「洗脚(シージャオ)」とも言います。
スーパーなどに行くと、特に冬場に、足湯の道具が売られるほど市民に広く知られています。こうした製品は父母や祖父母など年長者にプレゼントするアイテムとしても人気があります。
日常的にお風呂に入る文化がある日本人からすると、なぜ中国人がそこまで足湯にこだわるのか?すこし理解が難しいかもしれません。

そもそも、上海エリアでは、一般家庭でお風呂に入る習慣というのはあまりありませんでした。マンションなどに湯船として機能できるバスタブを設置している世帯も多くありません。
中国北方エリアと違って、もともと暖房設備の整備が不十分であったので、冬に家庭でお風呂に浸かるといったことは一般的ではないというのが現状です。
理由はいろいろあります。例えば、冬場にお風呂から上がったときなど逆に体を冷やすリスクを高めますし、シャワーにしても又然りです。しかし、足湯は足を温めても、上半身の衣類を脱ぐことがなく、寒さには対処しやすいというわけです。
各家庭には足湯をするための桶やバケツは必ずありますし、庶民的な旅館・招待所(中国の簡易宿泊所のこと)でもよく見かけますね。実際に経験すると分かるのですが、たとえ冬場にお風呂に入れなくても、足さえしっかりと洗い、温めると、リラックスすることができるのです。
そのほか、高齢者がいる家庭では、今でも子供たちが高齢者の足湯を手伝ったりします。こうした年配者の脚を洗ってあげることが、一種の美徳になっています。

足湯足湯が中国人の庶民文化の一つであることは間違いありません。 もう一つ、興味深い例をご紹介しましょう。
上海の隣に位置する江蘇省にある如皋という街は、中国でも長寿で有名なのですが、ここのお年寄りは不思議とお風呂よりも足湯を好むのです。
これは、中医学的にも説明できるのですが、お年寄りの多くは、年齢が増すにつれて自然現象的に気・血が不足してきます。冬場にお風呂に入りすぎると、そうした気・血をあべこべに発散してしまい、よくないと考えます。
お風呂で汗を極端にダラダラとかくのも中医学的には問題なのです。
私の患者さんでも、お風呂に入ると疲れるとおっしゃる方がおられますが、そういうときこそ足湯を効果的に使うように指導しています。

 

●中医学の分野では、足は、健康にどう関わりがある部位なのですか?

▼藤田医師
最近、日本でも足裏マッサージをしてくれるところが増えました。中国ではかなり前から隆盛しています。
医療というより、健康維持的な目的で、一般市民からもこうした足のケアは重宝されています。
そもそも足の裏には、体全体に関係する経穴がありますし、反射区もあります。よって、お湯に足を浸すことで、こうした部位を刺激し、全身の血の 巡りをよくするほかにも、新陳代謝を促進することができます。
有名なところでは、足の裏の反射区の痛みの部位からどの五臓六腑に問題があるのかを推測することなどはよく見かけますが、注意しないといけないのは、あくまでも体のほかの症状を鑑みて総合的に判断しないといけないということです。
痛みがあるから絶対的にそこに問題があるというわけではないのです。

 

●中医学では足湯を治療にとり入れているとききましたが…。

▼藤田医師
内科・外科・整形外科・皮膚科・婦人科・小児科など中医学の各科で足湯は活用されます。
特に、生薬煎じ薬を使った足湯の場合、皮膚からの生薬成分の吸収が促進されますし、皮膚温度の上昇から毛細血管が拡張し、血液やリンパの循環が改善されます。
また、細菌や真菌などの感染症の場合でも、患部に直接作用して治療効果を高めます。

こういった観点からも、偏頭痛やめまい、急性の鼻炎、高血圧などの内科的な疾患、水虫やあかぎれ・しもやけといった皮膚疾患、関節や足の痺れなどの治療にも使えます。
疾患の治療の場合は、健康維持法の足湯とはまた違って、他の治療方法と併用しながら医師の指導の下で使うということが多いです。

 

●風邪やインフルエンザは、足湯で対処できますか?

▼藤田医師
中華系では、台湾などの中医学でも足湯をつかって風邪の予防や治療を行うことはよくあります。
この場合は、かなり熱めのお湯を使って、汗をかかせるのが目的ですが、風邪の引き初めでしたら、汗をかいて体の表面にある邪気を体の外に出さなければならないと中医学では考えます。
内服生薬(漢方薬)と併用すると、その効果はさらに高まります。

中国でも問題となっている新型インフルエンザですが、こちらでは、かなり前からタミフルに頼らずに中医学の生薬を使って治療しようとする試みが行われ、成果が出てきています。
一般的な内服生薬のほかにも、うがい薬として生薬を使ってみたり、足湯をしてみたりすることも行われています。

例えば、SARS治療で、中薬(漢方薬)治療での実績を高めた広東省中医院では、新型インフルエンザで38℃以上の熱があっても汗が出ない場合は、生薬を使った足湯を行っています。
中医学の治療法の一環としての足湯の必要性は、今回の新型インフルエンザに対しても認識されています。

 

●足湯をする際に気をつけることを教えてください。

▼藤田医師
まず、足湯のあと、足はすぐに拭くようにしてください。
中医学では、病気の原因ともなる邪気が、こうした濡れたときなどに侵入しやすくなると考えますので、しっかりと拭くことが大切です。
そのほか、食べたあとすぐの足湯もよくありません。下肢の血管が拡張して胃腸への血液が一時的に減少してしまう可能性があるからです。
また、女性の場合は、生理中・妊娠中の時は足湯を控え、医師に相談をしてください。出血傾向にある方も注意が必要です。
また、足湯を終えたあとは、すぐに活動せず、できることなら30分程度ベッドなどでリラックスすることも大切です。
さらに治療目的で生薬を使って足湯を行う場合は、皮膚にアレルギー反応がないか、注意するようにしてください。また、足に外傷などがあるときも足湯の可否は医師の指導に従ってください。

 

●効果的な足湯法を教えてください。

▼藤田医師
足湯に関しては、おそらく皆さん様々な方法で実行されているのではないでしょうか。私のやり方もぜひ参考にしてみてください。
一般的に、深めの容器をつかって脛ぐらいまで40℃程度のお湯を入れます。底が平らでゆったりとした容器が理想です。
私は煎じ生薬を活用しますので、患者さんの疾患によって処方を変えます。
煎じ薬を使う場合は、予め生薬を煎じておいて煮汁を入れます。そして20〜30分ぐらい足を浸けます。
温度が冷めてくるので、できたら途中で1回ぐらいお湯を交換できたら理想です。
こうやって足を温めたあと、さらに足裏のツボなどをマッサージなどで刺激してあげるとさらに効果的です。

 

●中医学の観点から見て、健康医学社の「黒酢の足湯」は、どう思われますか?

▼藤田医師
お酢を使うというのは非常に興味深いと思います。
お酢は生薬の加工(中医学では炮製といいます)にも欠かせません。中医学ではお酢の性質は酸・苦・温に分類します。
生薬加工においてお酢を使うことで、殺菌・解毒作用を高め、血や気の巡りを改善し、腫れを抑えたり、痛みを止めたりするときに使います。
特に、炮製するときは化学合成された酢は使えませんので、2〜3年寝かされた本物がベストとされています。またお酢の殺菌効果は、皮膚疾患に対しての足湯では欠かせません。昔から広く活用されているといっても過言ではありません。

余談になりますが、お酢を使って足湯をすると、必然的にお酢の香りが室内に漂うと思いますが、中国では昔からお酢を使って、それを煮沸して部屋を殺菌させる習慣があったりします。風邪の予防などにも使われました。